2014年御翼4月号その2

揺れる夏 ――『陽だまりの窓辺から』水口 洋先生

水口先生は、著書『陽だまりの窓辺から』の「揺れる夏」という章で性の問題について記しておられる。

性をめぐる危険

 思春期の問題を語るときに、性の問題を避けて通ることはできません。女子高生の援助交際などが話題となり、中絶や性的乱暴が中高生の身近で起こっている現実は、いくつかの意味で不幸な状況の中にあるといえるでしょう。その一つは、思春期を生きる子どもたちの中に、トータルな人間性の発達という視点が失われていることがあげられます。知育のみが重んじられる教育の中で、心と体の健全な発達が重んじられていないように思えるのです。その結果として、手軽に自分の体や性を扱い、自分に与えられたいのちに対する責任を勘定に入れない考え方が蔓延しています。
 男女という異なった存在が、性を通して結ばれていくということは、人間のいのちに関わる神秘的な接触です。全人格的な関わりであり、命を生み出すほどの深い交わりであり、本能と意志に基づく行為でもあります。ですから自分の性を軽視することは、心と体の統合された「私」を大事にしないことであり、それは人間存在の大切な何かが抜け落ちてしまう危険をはらんだ事柄です。この危険こそ、現代の思春期の子どもたちを取り囲んでいる罠であるといえるでしょう。                    
 そして、性をめぐる不幸な状況で最も憂慮すべき事柄は、人間が本来的にもっている豊かさへの信頼を喪失させるということです。バランスを欠いた性行動は、大人を見る目、社会を見る目への偏りを生みます。大人なんて、人間なんて所詮こんなものと見切ってしまい、自分自身の生き方への展望も失ってしまいます。また、真実な生き方への軽蔑も芽ばえてしまいます。そして、男性と女性のそれぞれの性のもつすばらしさを見失ってしまう危険をはらんでいます。人間性が喪失されると、暴力的な行為や野蛮な行動に対する歯止めがきかなくなり、また人格を統合する力も失われて、バラバラな自己に苦しむこと(もしくは無頓着になる)になってしまいます。
 夏休みは最も誘惑の多い季節でもあります。自律的な生活ができずに、危険な遊びの中で自分を失ってしまうことも起きやすい時でもあります。比較的おとなしい性格であったN子は、窮屈に思える家庭からの脱出を願って、小学校時代の友だち数人で旅行に出ました。旅先で刺激的な数々の出会いを体験し、すっかり生活を乱してしまい、その後の学校生活に戻れなくなってしまいました。まだ幼さの残っていたN子の表情に接して、ほんのちょっぴり歯車が狂っただけで、これから背負っていかなければならない人生の重さを思い、何ともやりきれない思いになりました。その後、風の便りに元気に生活していることを聞いてほっとしていますが、回り道したことがプラスに働くように祈らざるをえない心境です。
 
 芸能人ストーミー・オマーティアンさんは、精神分裂症の母から精神的虐待を受けて育った。そのため、麻薬中毒、二度の中絶、自殺未遂などで人生は破綻していた。死にたいというストーミーに、歌手友達のクリスチャン女性が牧師を紹介した。牧師は、キリストを受け入れ、新しく生まれることについて話した。「それは霊の領域で起こるんです。しかしまた、現実のあなたの生活にも
 実際的な影響を及ぼします」と彼は説明した。救い主を受け入れたストーミーから、悪い習慣は努力しなくても消えていった。煙草も酒もやめ、それらのコマーシャル出演も断るようになる。すると、事務所を解雇されてしまい、「29年間の人生は全て無駄だった」と彼女は泣きながら神に訴えた。その絶望感の中で、ストーミーは主の慰めの言葉を聞いた。「わたしは贖い主である。わたしは全てのことを新しくする。あなたが失ったものはどんなものでも回復する。あなたが何をしてしまったとしてもかまわない。わたしは全ての傷や痛みを取り除き、癒してあげるだけでなく、その一つ一つを祝福に変えることができる」と。
 彼女は現在、神の愛を証しするために歌い、講演し、それまでの苦しみに満ちた過去が、同じように苦しむ人たちを救いに導くために用いられるようになった。そして、教会で知り合ったクリスチャン男性マイケル(グラミー賞受賞のレコードプロデューサー)と再婚、三人の子どもに恵まれ、彼女の著書11冊は、ベストセラーとなっている。

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